樹枝六花の奇跡

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「あっ…雪の匂いがする」 夜の23時、葉山くんは空を仰いで呟いた。 *** 「じゃあ、丸山くんと新入りの葉山くんがご登場しましたので、改めて…今日も仕事お疲れ様でしたー!」 ガラスのジョッキがぶつかる音と喉をビールがゴクゴクと喉を通る音が重なる。 「なんか、すみません。仲間の飲み会なのに」 「気にするなよ。ここにいる奴ら、皆んないいヤツだから、そんな事は気にしない!なんて、まだ9ヶ月の付き合いだけどー」 「そうだよ。他の会社の人と話せるのも良い機会だよね。今の会社しか私達知らないわけだからさ。社会勉強になるかも」 「涼子、いい事言うな」 ありがとう。と、葉山くんは微笑む。 大学を卒業後、都会の食品メーカーの事務員として就職して早くて9ヶ月が過ぎた。 数十人いる同期の中、仲良くなった男3人と女2人のグループ。仕事終わりの金曜日はいつも決まって同じ店でお酒を飲むのが習慣。 この日もそう、いつものメンバーで飲んでいると1時間遅れて来た丸山くんが大学時代の友人の葉山くんを連れて来た。 切れ長の目元と薄い唇が印象的な顔立ち。 店に来る途中にたまたま会い、連れて来たとの事だった。彼を含めての飲み会は特別なにかが変わるわけではなかった。 仕事の事や、芸能人の事、国内ニュースなどの他愛もない話し。そんな中、葉山くんは時折り愛想笑いで微笑み、二言三言話す物静かな人だった。 乾杯のビールのあとは、永遠とウィスキーを飲んでいたのに顔は全然赤くならない。 見た目や行動とは違い、落ち着いた、物静かな人だな。私はそんな印象を持った。
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