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墨筆で描きなぐったような滲んだ暗闇の中に、笑い声だけが響いていた。
笑い声だけが…。
その石室を発見した時、考古学上の大発見に繋がるやも知れぬと誰もが喜びに湧いたが、その直後入口は岩で閉ざされ、隊員たちは閉じ込められてしまった。
事故かはたまた何者かの意志が働いたのか、それは天のみの知るところであろうが、事態の打開に動かなければこのまま私たちはみなこの石室に封じられたまま、やがて年月が私たち自身を後の世の考古学的大発見と化すだろう。
こんなところで朽ち果てミイラとなるなど、誰も望む筈がなかった。
銀色の隊員服のその輝きも照らす事が出来ない漆黒であったが、やがて次第に目が慣れてきた。
それは他の隊員たちも同様のようで、みな不確かな視界の中、ポケットライトの小さな灯りを頼りに手探りで石室内を探り始めた。
「隊長? ここに隙間が!!」
その隊員が指し示す岩に何人かが取り付き渾身の力を込める。
壁を成していた岩肌の一角ががらがらと崩れ、その奥から何かが滑り落ちてきた。
脱出路が拓けると誰もが期待していた矢先の突然の落下物だったが、訓練の成果ぞと俊敏に飛び退いた隊員たちに、しかし大事はなかった。
石棺だった。どう見ても。
覆っている蓋の表面に古代文字と思しき銘文が掘られていた。
「カワトネ君、読めるかね?」
博士に促されて隊長が棺の側面に書かれた文字に顔を寄せる。
「われ金色バット」
「こんじきバット?」
隊長たちにざわめきが広がる。
考古学を究めたカワトネが、だが見慣れぬ文字なのか記憶の中の類似文字と照らし合わせているかのようにひと文字ずつゆっくりと読み進める。
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