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きっと…自分の胸の内を話す事は、森野さんにとって苦しい事なんだろう。
「あのね…森野さん。私ね、森野さんがカケルさんでも、そうでなくても良かったんです。だって…私が好きになったのは…過去に出会ったカケルさんじゃなくて、あのお店で出会った森野翔太という人間だから…。森野さんの仕事への姿、本当に尊敬してました。
尊敬から恋愛感情へ移行するのなんて、簡単でしたよ。でもね、今の森野さんを作って来た過去なら、私は過去も現在(いま)も…未来も…全部ひっくるめて森野さんが好きです」
真っ直ぐ伝えた私の言葉に、森野さんは泣き笑いのような顔をすると
「お前…凄い殺し文句だな…」
そう言ってきつく抱き締めた。
「ごめん…。俺、お前の事、やっぱり手放す気ないわ」
と囁いた。
「え?」
驚いて森野さんを見上げた瞬間、森野さんの唇が私の唇に触れた。
驚いて固まっている私に
「柊…愛してる」
大好きな声で…瞳で…笑顔で…森野さんがそう囁いた。
私は信じられない気持ちと嬉しさで、涙が溢れ出して来た。
私を見詰める森野さんの瞳が優しく細められる。
「昔の俺は…たった一人の恋人も守れないガキだった。でも…今は違う。お前一人くらい、守り抜いてみせる。だから、側に居てくれないか?」
涙が止まらない中、森野さんの言葉に顔も気持ちもぐちゃぐちゃになる。
そんな私に、森野さんは悪戯っ子のような目をして
「まぁ…たとえお前が嫌だと言っても、もう手放す気無いけどな」
そう言って微笑んだ。
私は涙で歪む視界がうっとおしくて、両手で涙を拭いながら
「森野さんこそ…後悔しても知りませんよ!」
必死に声を絞り出してそう叫ぶ。
すると森野さんは
「望むところだ」
って言うと、『コツン』っと私の額に自分の額を当ててそう答えて、再びゆっくりと抱き締めた。森野さんの腕の中で、私はふと夜空を見上げる。夜空で輝く星や月が…、まるで私達を祝福してくれているかのように輝いていた。私の長い片想いは、今、こうして終わりを告げた。
そしてこれから…私と森野さんの新しい関係が始まる。
きっとこれから先、何かある度に私はこの夜空を思い出すんだろう。
月の光がまるで…私達を包み込むように光り輝いているこの夜空を…。
~完~
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