第二章 似てるけど世界で一番嫌いな奴

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 私の新人研修は、サービスセンターから始まった。 ラッピングをした事が無かった私は、贈答品用のラッピングや熨斗の付け方等を必死に覚え、やっと覚えたかと思ったら新生児用品売り場へ異動。 その後、ベビー雑貨、マタニティー売り場、ギフト売り場から催事と渡り、最後に玩具、文具、ファンシー売り場と研修した。 「今日から、うちの売り場で一週間研修する事になりました柊 明日海さんです」 杉野チーフから紹介され、挨拶をしていた時だった。 「じゃあ、一人一人自己紹介しましょうか。まずは……森野君から」 杉野チーフが指名した時、一瞬ドキっとした。 スラリとした長身に、短く切りそろえた髪の毛が顔立ちの美しさを際立たせている。 切れ長の涼し気な瞳と凛々しい眉に、スーと通った鼻筋。引き締まった薄い唇。 芸能人かと思う程、綺麗な顔をしていたその人に思わず見とれていると 「森野です」 と発した声が、CDをもらった時の声よりも大人びてはいたけど、私が聞き間違える筈が無い! 「その声……って、カケルさん? 森野さん!  歌!歌を歌っていませんでしたか!」 思わず叫んでしまっていた。 すると森野さんはムっとした顔をして 「それ……嫌味?」 そう返したのだ。 「こら! 森野君、すぐ喧嘩売らない! ごめんね、森野君は酷い音痴なの。 だから、歌は絶対に歌わないのよ」 困った顔をして言う杉野チーフに 「でも……」 思わず反論しそうになった私に 「誰と間違えてるのかは知らないけど、俺と声が似てるなんて……。 歌が致命的に下手くそな奴なんだろうな」 と、鼻で笑われて言われたのにはカチンと来た。     
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