第三章 これが恋ってヤツですか?

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「森野君は真面目やし、男前やからね。ママさんのファンが多いんやで」 って、いつだったか店長が言っていたのを思い出す。  実際、森野さんと仕事をするようになって、販売員はただ品物を出して売れば良いという考えなくなった。 お客様が何を求めているのか? 今年はどんな物が人気があるのか? 女子では?男子では? 又、年齢によっても、お客様が求める物も変わるし、こちらが勧める物も変わって来る。  森野さんの胸ポケットにはいつも小さなメモが入っていて、気になった事や気が付いた事などを、その都度メモしているのも知っていた。 だからなのか、森野さんは契約社員にも関わらず、交渉が一番難しいメーカーを任されている。 「森野君って……、本当にこの仕事が好きよね」 いつだったか、杉野チーフが森野さんに呟いた。 すると森野さんは 「好き……とは違います。ただ、此処は笑顔で溢れているから……、その笑顔に応えたいんです」 売り場を駆け回る子供や、サンプルの玩具で遊ぶ子供たちを見て微笑んで答えた。 「ふふふ……、それが好きって事だと思うけど」 杉野チーフがそう言うと、森野さんはバツが悪そうに顔を歪めて 「俺は、あなたのそういう所が本当に苦手です」 そう呟いた。 「あら! 私は、森野君のそういう所が大好きよ」 親し気に話す二 人を見て、心の奥がザワザワとざわめいた。
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