第四章 すれ違う想い

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「やっぱりすげぇな、園田さん。ちょっと手を加えただけで、田舎のスーパーがお洒落なショップになったくらいに違うもんな」 広い売り場を歩き回り、ツリーの飾り方のちょっとした違いや商品の陳列を見ては、子供のようにはしゃいでいる。 「やっぱり惜しい人材ですよ。店長、何で手を出したんですか!」 「手を出したって……人聞きの悪い事言わんといてや」 昨日のあの険悪なムードが嘘のように、和気あいあいと話をしている。  店長はこの通り終始穏やかで優しいから、独身時代はかなりモテていたと噂に聞いた。 奥様になられた方は、店長が一目惚れして、追い掛けて追い掛けてやっと結婚したのだと聞いている。 森野さんまで一目置く程の人って、どんな美人なんだろう? 胸の奥がザワザワし始めた時だった。 「亮君、もう帰っても良いかな?」 大きなお腹を抱えた、恵比寿様のようにふくよかな方が現れたのだ。 「由美~!危ないから、ここまで来なくてええのに~」 私の知らない、奥様に鼻の下を伸ばした店長がその人に走り寄る。 「大丈夫だよ。もう、安定期だし。亮君は心配しすぎ」 『あははは!』って豪快に笑うその人は、私を見るなり 「あ! あなたが有望な新人ちゃん?」 そう言って近づいて来た。 全体にふっくらしていて、優しいオーラを纏ったその人は 「玩具売り場、大変でしょう? 特に、森野君の下じゃね~」 と、本人に聞こえるようにわざと大きな声で言っている。 「園田さん!」 怒って叫んだ森野さんに 「私、もう和田ですけど~」 って言いながら、森野さんの背中をバシバシ叩いて笑っている (この人……凄い……) 私はその光景を、驚いて見ていた。  店長の奥さんは明るい空気を纏っていて、居るだけで店内が明るくなったように感じた。 ひまわりのようなその人に、店長が惹かれた理由が分かったような気がする。 店長の奥さんは、私の肩を叩くと 「色々大変だろうけど、みんながあなたに期待しているのよ。森野君だって、そう。口は悪いけど、あなたの事を真面目で一生懸命だって褒めていたし」 そう言うと、にっこりと微笑まれた。 店長の奥さん言葉に驚いていると、私の背後から 「園田さん、余計な事を言うなら帰って下さい」 と言って、森野さんは怒った顔でストック置き場へと去ってしまう。 そんな森野さんに落ち込んでいると、店長の奥さんは私の背中を叩いて 「そんな顔しないの! あれは、奴の照れ隠しなんだから! もっと自信持ちなさい。森野君に褒められているんだから」 そう言って微笑んだ。 (自信か…………) ぼんやりと考えていると
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