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「さて! 帰れと言われたので、私は帰りますか」
そう言って歩き出した店長の奥さんに
「あの!」
と、必死に声を絞り出した。
不思議そうな顔をして振り向いた店長の奥さんに
「ありがとうございます」
そう言って深々とお辞儀すると
「こんな素敵なディスプレイを見せて頂いて、勉強になりました。それから私、自信はまだ持てないですけど、これからも頑張ります!」
と言って、再びお辞儀をした。
感謝の気持ちを、どうにか伝えたかった。
すると店長の奥さんは笑顔を浮かべて
「あ~、残念。こんな可愛い新人さんを、私が育てたかった~」
そう言って、私をギュッと抱き締めた。
人に抱き締められた事なんて子供の時以来で、何故だか分からないけど、涙が溢れそうになってしまう。
「色々あるだろうけど、頑張ってね。あなたは素敵な販売員になれるから」
店長の奥さんに言われて
「はい」
と笑顔で答えた私に、店長の奥さんは笑顔で頷くと、ヒラヒラと手を振ってから、ゆっくりとした足取りで階段を降りて行く。
「素敵な人でしょう?」
慌てて追い掛けた店長に連れられて、ゆっくりと帰って行く奥さんを見送っていると、杉野チーフが呟いた。
「はい」
と返事をした私に
「私の目標なの。園田さんはね、いつも大きな心で私達を包んでくれていたから。私はね、柊さんを甘やかしているんじゃないの。あなたは絶対、このお店にとって大切な人になるって、私はそう思っているんだ」
杉野チーフはそう言うと、優しく微笑んだ。
私は店長の奥さんと、杉野チーフの気持ちに胸が熱くなった。
このお店で働けた事に、心から感謝せずにはいられなかった……。
しかし、この時の私はまだ、この後に凄まじい戦いが待っている事を知らなかった。
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