第四章 すれ違う想い

12/22
74人が本棚に入れています
本棚に追加
/88ページ
 お店には制服があって、青いシャツと赤いネクタイに紺のセーターは会社で支給されるのだが、下は自分で用意しなければならない。 ただし、紺か黒であれば、スカートでもパンツでも自由に選べるようになっていた。  しかし男性は、紺のパンツのみと指定されているので、制服の上下が会社から支給されているらしい。  私はキュロットを巻きスカート風に見えるようなデザインの物を履いているので、下着が見える事は無いけれど、慌てて足を閉じて体育座りになる。 「何で、森野さんが此処に居るんですか?」 驚いて呟くと 「はあ? 此処は俺の休憩所」 そう言うと、ポケットから煙草を取り出した。 タバコを咥えると、何処かぼんやりと遠くを眺めている。 「森野さん、タバコ吸いました?」 思わず尋ねた私に、森野さんはハっとした顔をすると 「たまにな……」 そう言ってタバコに火をつけた。 この一連の流れが綺麗で、思わず見つめて居ると 「さっきの歌……」 と、森野さんが口を開いた。 「聞いてたんですか!」 真っ赤になって叫んだ私に 「人聞き悪いな……。聞いていたんじゃなくて、聞こえたんだよ」 と言うと、ムっとした顔で森野さんが私を見た。  ふっと真剣な表情で私を見詰めた森野さんに、ドキリと心臓が高鳴る。
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!