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私はこの時に見た、まるで消えてしまいそうな森野さんの笑顔が忘れられずにいた。
悲しそうな、切なそうな……何かに耐えるような笑顔。
森野さんが何を抱えて、何に苦しんでいるのかは分からない。
それでも、少しでも森野さんの役に立ちたいと思うのは……イケナイ事なのだろうか?
きっと……森野さんの音楽嫌いも、森野さんが抱えている『何か』が起因しているように思う。
私が『カケル』さん事件で森野さんと喧嘩した後、私は森野さんが音楽嫌いだと聞かされた。
杉野チーフや木月さんの話では、森野さんはクラシック音楽以外は全く聞かないらしい。
いちじき、お店で邦楽を流していたら
「うるさくて、仕事に集中出来ない」
と文句を言っていたらしい。
なので、カラオケに誘っても行く筈もなく……。
一度だけ、店長に誘われて店長の奥様と杉野チーフと一緒に森野さんもカラオケに行ったらしいが、人の歌を聴く専門で決して歌わなかったらしい。
その時に無理矢理、童謡の「ふるさと」を唄わせたら、全く音が取れていなくて壊滅的な歌声だったのだとか……。
「勿体無いよね……、あんなに良い声しているのに……」
杉野チーフが残念そうに呟いていたっけ……。
「でもね、あの森野君に弱点があるっていうのには、親しみがわいたけどね」
小さく笑って話す杉野チーフの言葉に、私はいつの間にか「カケル」さんと森野さんを別に考えていた事に気が付いた。
そして、今なら自信を持って言える。
私はきっと、森野さんがカケルさんに似た声で無くても、必ず好きになったと……。
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