第二章 似てるけど世界で一番嫌いな奴

1/8
前へ
/88ページ
次へ

第二章 似てるけど世界で一番嫌いな奴

「……ぎ……らぎ…」  CDから流れる歌声に、何度救われただろう。 あの日の彼の歌声は、いつしか私より歳下になっていた……。 「ひ……らぎ……、ひいら……ぎ」 そう……、大好きな歌声は、こんな感じの綺麗な声だった。 微睡み(まどろみ)の中、『バシ!』っと何かに頭をはたかれた。 は!と目を覚ますと、大嫌いな顔が私を見下ろしている。 「げ!」 思わず口から出た言葉を隠すように、慌てて手で口を塞ぐ。 すると、切れ長の整った目が私を見下ろし 「いつまで寝てるつもりだ?もう、昼休憩はとっくに終わっているんだけどな!」 腕時計を見せて叫ばれる。 「すみません!」 私は見せられた腕時計の時間も確認せずに、慌てて立ち上がって透明バックをひっつかむと、自分の配属された売り場へと走り出す。  従業員用の階段を3Fまでいっきに駆け上り 「すみません!遅くなりました!」 肩で息をして戻ると 「え?遅れていないよ?」 バックヤードで、売り場に出す商品の箱にテープで封をしていたパートの木月さんが苦笑いを浮かべる。 「え?」 驚いて売り場の時計を見上げると、時間は14時25分 私が休憩に入ったのは13時30分 休憩時間は1時間だから……。 (やられた!) 悔しさに地団駄踏んでいると、 「何?また、森野君にからかわれたの?」 くすくす笑いながら、杉野チーフがPOPを仕分けしている。
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!

75人が本棚に入れています
本棚に追加