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「杉野チーフ!聞いて下さいよ~!」
私が唇を尖らせて叫ぶと
「はいはい。よしよし、可哀想にね~」
と言いながら、杉野チーフが頭を撫でて来る。
「もう!何で私の教育係が森野なんですか!」
地団駄踏んで荒ぶる私に
「こらこら!呼び捨てにしないの! あれでも一応、先輩なんだから」
と、杉野チーフが私を宥める。
「私、杉野チーフが良いです」
文句を言っている私に、パートの木月さんが笑いながら
「でも……正直、森野君があんなに面倒見るとは思わなかったわよね」
と話しに加わって来た。
「え? 面倒なんか見てくれていないですよ!」
私はそう叫ぶと、指で両目を吊り上げてつり目を作り
「柊~、さっさと仕事しろ! 柊~」
と、森野さんのものまねをした。
すると、最初は笑っていた二人の笑顔が、一瞬にして固まる。
二人の表情に私が固まった瞬間
「へぇ~、俺ってそんな顔してるんだ……」
地の底から這って来たような声が、背後から聞こえて来た。
私が固まったままゆっくり振り返ると、怒り心頭の顔をした森野さんが立っていた。
「ひ!」
思わず息を飲んだ私に
「遅刻しそうなのを助けてやったのに……、良い度胸だな」
ニヤリと恐ろしい笑顔で私の腕を掴むと
「悪口言う元気があるんなら、力仕事でもしてもらおうか」
森野さんはそう言いながら、私の腕を掴んで歩き始めた。
「い~~やぁ~~~」
涙目で叫んだ私を、杉野チーフと木月さんが両手を合わせて見送っていた────。
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