第八章 月歌~gekka~

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「凄かったね~」 興奮する平原チーフが 「この後、楽屋に行くんだけど…行くでしょう?」 と私に尋ねた。 私は首を横に振ると 「泣きすぎで…顔がぐちゃぐちゃなので…」 そう答えた。 「え!全然大丈夫だよ!まだ好きなんでしょう?ちゃんと会った方が良いよ」 心配そうに言う平原チーフに 「じゃあ、ちょっとメイクを直して来ますね」 と嘘を吐いて席を立つ。 アンケート用紙を書く人や、スタンド花を写真に撮る人波を抜けて外に出る。 季節は春になっていた。 あの日に見た桜ではないけど…、白い梅の木が目に留まる。 会場を抜けて少し歩いた先に、白い梅林の公園があった。 私は公園のベンチに座り空を見上げる。 「あ…今日は満月なんだ」 暗い夜空に浮かぶ月を見上げて呟いた。 そしてふと…今日見たライブを思い出す。 大きなホールを埋め尽くす人、人、人。 色とりどりのライトに照らされて歌う森野さんの姿。 「本当に手の届かない人になっちゃったな…」 溜息交じりに呟くと 「お前…本当に言う事聞かないよな…」 そう呟く森野さんの声が聞こえて、慌てて声の方へと視線を向ける。 月明りに照らされて、森野さんの姿がそこにあった。 「なんで?」 驚いて立ち上がる私に、森野さんは苦笑いをしながら 「お前が、素直に言われた通りに楽屋に来ると思う訳無いだろう?」 随分な言われように口を開きかけた瞬間、森野さんに抱き締められる。一瞬、何が起こっているのか分からなかった。 「柊…、今から話す事を黙って聞いてくれないか?」 いつになく真剣な森野さんの声に、私は小さく頷く事しか出来ない。 初めて抱き締められた森野さんの胸は広く、ドキドキと鳴る森野さんの心臓の音が、私と同じように緊張を伝えていて何も言えなくなる。私が座っていたベンチに腰掛けると、森野さんは空を見上げてポツリポツリと話し出す。 「俺は清香を失ってから、かなり荒んだ生活をしていたんだ。女もたくさん泣かせて来た」 森野さんの後半の言葉に胸がズキっと痛む。 隣で空を見上げて話している森野さんは、本当に女性なら誰もが惹かれる容姿をしている。その上話す声も綺麗だから…、そういう状況は安易に予想出来た。 でも、予想しているのと実際に聞くとなると、やっぱり好きな人からは聞きたくない言葉だった。
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