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「いきなり俺の声を聞くなり、『カケルさん!』って叫ぶし…。あの店では、過去の事を封印していたから本当に焦った」
「知らなかったとは言え…すみませんでした」
森野さんの言葉に小さくなると、森野さんは大きな手で私の頭をガシガシ撫でて
「嫌…。その後、お前が屋上で大の字になって俺達の歌を口ずさんでいたのを見て、もしかして…って思い始めた。」
森野さんと親しくなるきっかけの出来事を思い出し、再び顔が赤くなる。
「もう!それは忘れて下さい!」
森野さんの肩を叩こうとした手を、森野さんの手が掴む。
真剣な眼差しが私を見詰めて
「お前の部屋で俺達のCDを見て、お前があの時の女の子だって確信してショックだった。何でか分かるか?」
森野さんが聞いて来た。
私は森野さんの瞳に見つめられ、又、声が出なくなり必死に首を横に振って答える。
すると森野さんは
「負けず嫌いで…、何に対しても一生懸命なお前に惹かれてた。でも…俺は清香の事があったから、お前を好きになる事を否定し続けていたんだ」
そう言って悲しそうに瞳を揺らす。
「俺に…誰かを好きになる資格なんて無いと思ってた」
この言葉に…、いつだったか森野さんが店長と話していた言葉を思い出す。
『俺があいつを好きになる事は無い』
あれは…そういう意味だったんだ…。
ぼんやりと考えていると
「でも…お前があの時の女の子だって知って…、尚更、手を出してはいけないと思ったんだよ」
ここまで話すと、私の腕を掴んでいた森野さんの手がゆっくりと離れる。
「もう…誰も好きにならないと思ってた。でも、いつしかお前の笑顔や俺に突っかかる姿に安心できる自分が居て…。気が付くと、お前を目で追ってる自分が居た。自分の気持ちに気付いた時は、本当に苦しかった」
両手で顔を覆い、森野さんは吐き出すようにここまで話すと
「こんな情けない奴で…ガッカリしただろう?」
そう言って小さく笑う。
私は必死に首を横に振って、顔を覆っていた森野さんの手に触れた。
触れた森野さんの手は小さく震えている。
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