第八章 月歌~gekka~

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「いきなり俺の声を聞くなり、『カケルさん!』って叫ぶし…。あの店では、過去の事を封印していたから本当に焦った」 「知らなかったとは言え…すみませんでした」 森野さんの言葉に小さくなると、森野さんは大きな手で私の頭をガシガシ撫でて 「嫌…。その後、お前が屋上で大の字になって俺達の歌を口ずさんでいたのを見て、もしかして…って思い始めた。」 森野さんと親しくなるきっかけの出来事を思い出し、再び顔が赤くなる。 「もう!それは忘れて下さい!」 森野さんの肩を叩こうとした手を、森野さんの手が掴む。 真剣な眼差しが私を見詰めて 「お前の部屋で俺達のCDを見て、お前があの時の女の子だって確信してショックだった。何でか分かるか?」 森野さんが聞いて来た。 私は森野さんの瞳に見つめられ、又、声が出なくなり必死に首を横に振って答える。 すると森野さんは 「負けず嫌いで…、何に対しても一生懸命なお前に惹かれてた。でも…俺は清香の事があったから、お前を好きになる事を否定し続けていたんだ」 そう言って悲しそうに瞳を揺らす。 「俺に…誰かを好きになる資格なんて無いと思ってた」 この言葉に…、いつだったか森野さんが店長と話していた言葉を思い出す。 『俺があいつを好きになる事は無い』 あれは…そういう意味だったんだ…。 ぼんやりと考えていると 「でも…お前があの時の女の子だって知って…、尚更、手を出してはいけないと思ったんだよ」 ここまで話すと、私の腕を掴んでいた森野さんの手がゆっくりと離れる。 「もう…誰も好きにならないと思ってた。でも、いつしかお前の笑顔や俺に突っかかる姿に安心できる自分が居て…。気が付くと、お前を目で追ってる自分が居た。自分の気持ちに気付いた時は、本当に苦しかった」 両手で顔を覆い、森野さんは吐き出すようにここまで話すと 「こんな情けない奴で…ガッカリしただろう?」 そう言って小さく笑う。 私は必死に首を横に振って、顔を覆っていた森野さんの手に触れた。 触れた森野さんの手は小さく震えている。
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