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 思い出。それは過去の記憶。  人によってはそれが輝かしく光るものになったり、トラウマへとなったりと様々。  だから人は過去がトラウマにならないよう、今を懸命に生きているのだ――。 「……え、これマジ? 俺何もないんだけど」 「それはよかった。じゃあはいこれ」  読んでいた小説の感想を述べる暇もなく、俺の前に結構な量の紙束がドンッと音を立てて置かれる。  今日だけで結構こなしたつもりだったんだがまだまだ先は長いらしかった。 「いや待って手伝うけど聞いてくれ」   手に持っている本をぱたんと閉じて俺は、定位置である窓際の席に戻る彼女に声をかけた。 「わかったわかった、それ終わらせてくれたら聞くから早く頼むぞー」 「えー」  まあここで文句を言っても仕方がない。言ったところで既に仕事に戻った彼女の耳には入らないだろう。  俺も彼女に見習って目の前に再び積まれた仕事を再開することにした。 ☆ 「で、何の話だったか。何もないとかうんたらかんたら」  俺たちが作業する生徒会室に差し込む光が橙色へと変わるころ。  あった仕事が大分片付いたのか唐突に彼女が、さっき振った話題を振り返してきた。 「ああ、そうそう。思い出の話」 「思い出? 思い出なら山ほどあるだろう。遠足とか友達と遊んだこととか色々」 「それは確かに。でもあれじゃん、今でも自慢できる出来事とか鮮明に思い出せる強烈なやつはないよなって話」  遠足とか友達と遊んだ記憶なんかは結構ある。というか他人よりよっぽど多い自信があった。   「そうだな、確かに私の記憶にもテツローが輝いていた記憶はないな。……いやでもあるにはあるのか?」 「え、俺そんなすごいことやってたことあるのか?」    俺の知らない輝かしい過去があったりするのか!? 「いやこっちの話だ。テツローが犯罪者撃退したとか何かで優勝したみたいな栄光の記憶はないぞ」 「……だよなあ。はあ……」  一瞬かなり期待したがよく考えれば、そんなことがあれば絶対に俺の脳裏に焼き付いているはずだ。むしろ焼き付いて消えないまである。
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