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『ゆりがいないと、教室中が何だか元気出ないんだよな』
僕は黙ったままゆりの顔を見つめていた。
言いたかったことを言えないままの僕をじっと見ながら、彼女は相変わらず笑っている。
「何?どうしたの?」
首を傾げて不思議そうにゆりは言う。
「や、やっぱり体調がまだ良くないんだな。いつもよりしおらしいなんて」
言いながらぷいと僕は顔をそむけた。
(今日はそんなことを言いに来たんじゃないのに)
僕は、一度逸らせた視線を再びゆりへと戻した。
「えー、そう?でもそれっておしとやかになったってことだよねぇ。えへへ」
思考がポジティブになっているところを見ると、ゆりの体調はほぼ回復しているのだろう。
黙ったまま僕は、ごそごそとカバンの中からあるものを取り出した。
白地にカラフルな水玉模様が描かれたデザインの、キャンディの入った大袋。
ここに来る途中でコンビニに寄って買ったものだった。
それを見たゆりは、驚いたような顔をしてこちらを見ている。
「えっ!これ、何、何?キャンディ?」
「受け取らないなんて言わせないぞ」
精一杯の言葉を、僕は喉の奥から発した。
袋をそのまま、半ば押し付けるかのようにゆりに手渡した。
胸の前でその袋を見ながら、彼女はびっくりしたような顔のまましばらくじっとしていた。
そして、おもむろに袋の口をベリッと開けたかと思うと、その中からひとつ、嬉しそうにつまみ出した。
手の平に載せられたキャンディは、ハートの形。
透明の小さな袋にひとつひとつ包まれている。
「なあに?雄樹くんがこんな可愛いのくれるなんて、嬉しすぎるよ~!」
ゆりは愛おしそうにそのキャンディを頬に寄せた。
「沢山あるから一個あげる!一緒に食べよう!」
彼女の手の上にあるピンク色のハート。
ゆりは、ピリッと袋を破いて中身を出して言った。
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