CANDY POP

9/11
前へ
/11ページ
次へ
『ゆりがいないと、教室中が何だか元気出ないんだよな』  僕は黙ったままゆりの顔を見つめていた。  言いたかったことを言えないままの僕をじっと見ながら、彼女は相変わらず笑っている。 「何?どうしたの?」  首を傾げて不思議そうにゆりは言う。 「や、やっぱり体調がまだ良くないんだな。いつもよりしおらしいなんて」  言いながらぷいと僕は顔をそむけた。 (今日はそんなことを言いに来たんじゃないのに)  僕は、一度逸らせた視線を再びゆりへと戻した。 「えー、そう?でもそれっておしとやかになったってことだよねぇ。えへへ」  思考がポジティブになっているところを見ると、ゆりの体調はほぼ回復しているのだろう。  黙ったまま僕は、ごそごそとカバンの中からあるものを取り出した。  白地にカラフルな水玉模様が描かれたデザインの、キャンディの入った大袋。 ここに来る途中でコンビニに寄って買ったものだった。  それを見たゆりは、驚いたような顔をしてこちらを見ている。 「えっ!これ、何、何?キャンディ?」 「受け取らないなんて言わせないぞ」  精一杯の言葉を、僕は喉の奥から発した。  袋をそのまま、半ば押し付けるかのようにゆりに手渡した。  胸の前でその袋を見ながら、彼女はびっくりしたような顔のまましばらくじっとしていた。  そして、おもむろに袋の口をベリッと開けたかと思うと、その中からひとつ、嬉しそうにつまみ出した。  手の平に載せられたキャンディは、ハートの形。  透明の小さな袋にひとつひとつ包まれている。 「なあに?雄樹くんがこんな可愛いのくれるなんて、嬉しすぎるよ~!」  ゆりは愛おしそうにそのキャンディを頬に寄せた。 「沢山あるから一個あげる!一緒に食べよう!」  彼女の手の上にあるピンク色のハート。  ゆりは、ピリッと袋を破いて中身を出して言った。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加