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6
「よし、準備完了」
店内を飾り付けて、パンパンと手を叩く。
言うだけ言って消えた自称サンタの戯言を真に受けたわけでもないが、不思議と俺の身体は迷いなく動いた。ただ、やるべきことをやる。
「おい、氷室起きろよ」
「……ん」
頬をぺちぺち叩かれた後輩は、ぼんやりと目をこする。
「何ですか、先輩。もう朝ですか?」
「違うよ、夜はまだこれからだ」
店内のクリスマスソングを止め、俺は新たな曲をかける。
一年に一度の大切な日。大切な人に祝福されるべき日。誕生日に向けて送るバースデーソングだ。
「氷室、誕生日おめでとう」
手にしたクラッカーを三つ同時に鳴らす。
不意打ちを受けた今日の主賓は、見事にぽかんとした顔をしていた。
「クリスマスと誕生日が同じで、嫌だったって前言ってたよな」
「覚えて……いてくれたんですか、先輩」
「まあ、一応な」
売れ残りのケーキにロウソクを立てて火を点ける。元々はクリスマスケーキであるが、サンタのマジパンやらは除いておいた。BGMに合せて、俺は大声でハッピーバースデーと歌い上げる。
我ながらひどく音痴だ。
色紙で作った飾り付けも不恰好だし。
この状況下では、到底素敵なサプライズとはいかない。
でも、それでも。
「ぷっ。先輩、歌下手くそですね」
俺の大切な後輩は、ロウソクの炎を吹き消した。
小さな小さな笑みを浮かべながら。
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