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 ホワイトクリスマスというのは素敵なことだと思う。  クリスマスに雪が降れば、どことなく得した気分になる。何か良いことが起きるんじゃないかと思えて来るし、他の日に見る雪よりも幻想的な美しさを帯びて見える。  まあ、場合によるが。 「寒い、寒すぎる!」  俺はガタガタと震えながら、分かり切ったことを叫ぶ。  すっかり暗くなった空からは、絶え間なく雪が頭上に降り注ぐ。朝からずっとこの調子だ。体感温度的には、氷点下などとっくに下回っている。 「……クリスマスに、こんな寒空の下で俺は何をやっているんだろう」  「店長が大量に注文しちゃったケーキを売っているんですよ」  横で後輩の氷室が、冷静に事実を指摘する。  そう、テーブルに積まれたケーキの塔。俺達はバイト先のコンビニ前でクリスマスケーキの路上販売を行っていた。店長が馬鹿みたいな数を仕入れてしまい、山のような在庫を抱えてしまったのだ。  もう何時間もここでずっと突っ立っているが、客などろくに来もしない。 「あー、やっぱり売れ行き芳しくねーな」 「この天気じゃ、外に出る人もそういないでしょうからね」  氷室が吐く息は、見事に真っ白だ。  可愛らしい外見だからという理由だけで、彼女は客寄せにとミニスカートのサンタ服を着せられている。確かに似合っているのだが、その真っ赤な衣装も栗毛の美髪も、雪ですっかりデコレーションされてしまっている。 「あの店長、店員に売れ残りを買わせる気満々ですよ」 「まじかよ。相変わらずブラック過ぎだろ、うちの職場は。だからバイトがいつかないんだよ」 「昨日も二人辞めましたしね」 「急だったよなあ。前から辞めたがってはいたけど」  人気がないのを良いことに、俺達は適当に愚痴を言い合っていた。  一つには何か喋っていないと凍えて気を失ってしまいそうだというのもある。雪山に遭難してしまった人っていうのは、こんな気持ちなのかもしれない。 「サービス残業を積極的に推奨する経営姿勢、シフトはちょくちょく勝手に変える待ったなしの横暴、従業員に対する扱いも明らかに不公平……うちの店の難点を挙げ出せばきりがないからなあ」 「それなのに先輩は何で辞めないんですか?」 「決まっている。今までの人生で、バイトの面接に受かったのがここしかなかったからさ」 「ああ、先輩って人相が悪いですからね」 「言うな」
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