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何とも悲しい現実だった。
高二に上がり何かと金銭が要り用になって、目ぼしいところにバイトの応募をしてみたもののあら不思議。誰も彼もが俺の顔を見るなり、ノーサンキューと首を横に振る。生まれつき目付きが少々悪いのは自覚しているが、ここまで社会的に不評とは驚いたものだ。
唯一、受かったのはこのコンビニのバイト。
すぐ従業員が辞めるブラックな職場なので来る者は拒まず。世間に拒まれ続けた俺に選択肢などありはしなかった。
実に後ろ向きな需要と供給の一致である。
「逆に訊くが、そういうお前もこのバイト結構長いよな。何で続けているんだ?」
「さあ?」
「さあって、お前」
氷室はわずかに小首を傾げた。
絵になる仕草だ。見る人によっては雪の妖精とでも見間違ってしまうかもしれない。ちなみに俺が雪女みたいだと思ってしまったのは秘密だ。
「私は別にお金に困っているわけでもないし、勤労意欲に満ちているわけでもないし、もちろんこの仕事が好きなわけでもないので……客観的に見ればいつ辞めてやってもいいんですけど……何となくグズグズふんぎりがつかないんですよね」
ちょっと意外な返答ではあった。
こいつは典型的なノーと言える日本人である。自分の意に沿わぬことを、いつまでも我慢するようなタイプではない。前に店長が見た目は良い氷室に、強引なアプローチをかけたことがあったのだが、あからさまな舌打ちと凍りつくような一睨みで黙らせたという逸話の持ち主でもある。
「お」
しんしんと雪降る通りに人影が浮かぶ。
俺達はお喋りを止めて背筋を伸ばした。こちらを通るお客様候補には、購買意欲を損なわないように出来る限り好印象を与えるように努めねばならない。たとえ無駄な努力だとしてもだ。せいぜい愛想の良さそうな顔を作った。
「いらっしゃいませ!」
「特製クリスマスケーキはいかかでしょうか」
リズムを合わせて、俺と氷室は貴重な通行人に声を掛ける。
だが、若い男女の二人組は、ミニスカートのサンタをちらりと一瞥しただけで素通りしていってしまう。これからクリスマスパーティーでもあるのか、随分と早足だ。あるいは決して俺の方を見ようとしなかったことから、単に目付きの悪い男から出来る限り素早く離れたかったのかもしれない。
「またカモに逃げられましたね、先輩」
「氷室、言い方な」
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