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「また神様に逃げられましたね、先輩」 「随分出世させたな」  お客様は神様である。  神様であると同時にカモでもある。これは切っても切れない真理に違いない。 「このケーキ、物自体は悪くないんですけどね」  氷室はうず高く積まれた商品をぼんやり見つめた。  彼女の言う通り、俺達が売っているクリスマスケーキは結構な高級品である。有名店に勝るとも劣らぬとまでは言えないが、勝らずとも劣らぬ程度の品ではある。  ただし、その分値段のほうもかなりお高いのは如何ともしがたい。  もし、自腹で引き取ることになってしまったら、微々たるバイト代など簡単に吹っ飛んでしまうだろう。考えただけでも恐ろしい。 「お互いの幸せのためにも、何とか完売させないとなあ」 「実際のところ、クリスマス当日にコンビニで馬鹿高いケーキを買う人って何人いるものなんでしょうね」 「少なくとも、俺なら買わないな」 「私だって買いません」 「ダメじゃん」 「ダメですね」  人は時に自分に不要なものを全力で勧めなければならぬ時がある。  けれど、この虚しさはなんだろう。 「さっきの二人組、カップルかなあ」 「多分、そうじゃないんですか。仲良さげでしたし」 「まったく最近の若者は、クリスマスにいちゃつきおってからに……ああ、羨ましい」  まあ、最近の若者といっても先程の男女は明らかに俺達より年上ぽかったけど。  大学生くらいか。  あと二年足らずで、俺もああなるのかね。想像がつかない。 「……先輩は、彼女とかいないんですか?」  ぽつりと氷室が呟く。  その声は、とても小さくて雪の中に埋もれてしまいそうだった。 「いや、俺は」 「そうですね。クリスマスにここでこんなことをしている先輩に、彼女なんて高尚な存在がいるわけないですよね。そもそも、先輩の彼女になろうなんて物好きがこの地球上にいるかも疑わしいです。分かり切ったことを訊いてしまいましたね、忘れて下さい、ごめんなさい」  皆まで言わせず。  食い気味に、氷室が早口でまくしたてる。
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