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「先輩」
「どうした、何かホットなニュースでもあるのか?」
「いえ、どちらかと言えばクールなニュースですね」
不意に氷室がもたれかかってくる。
華奢な身体は服越しでも、男が望みえない絶妙な柔らかさが伝わってきた。
「おい、どうした。氷室?」
「私はもうダメです」
「は?」
「寒さにやられて精も根も尽き果てました。ぶっちゃけ、もう立ってられません」
「そこまで追い詰められているのかよ!」
ツンとした顔で眉一つ動かさなかったから、タフだなあと感心していたけれども。実はいっぱいいっぱいだったんかい。文字通り冷たい報せだよ。
俺は慌てて、氷室の身体をしっかりと支える。
「だ、大丈夫か!?」
「先輩……疲れたでしょう。私も疲れました。なんだかとても眠いんです……先輩……」
はい、大丈夫じゃありませんね。
この子、辞世の句的なものを詠んでいますね。
「寝るな! 寝たら帰って来れなくなるぞ!」
「私……無事にこのバイトを終えたら……先輩に……伝えたいことが……」
「何で死亡フラグをわざわざ立てる!?」
氷室の顔色は透き通るほど白い。
こんなときに不謹慎だとは思うものの、ぞくりとするほど美しい。
「おら、俺のカイロとマフラー貸してやるからしっかりしろ。なんなら、ホットのコーヒーもおまけでつけるから」
雑念を振り払って、俺は余分に持って来ていた分も含めて氷室にホッカイロを渡す。靴の中に入れてお腹と背中に貼り、懐にもしのばせる。ぐるぐると長いマフラーを首に巻きつけ、ついでにポケットに入れていた熱々のコーヒー缶を握らせてみると、なんとか後輩の目の焦点が定まった。
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