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「……あったかい」
「おお、目を覚ましたかっ」
「……先輩のカイロ、あったかいです」
いや、俺のじゃなくてもカイロは温かいものだよ。
あかんな。まだ、ぼんやりしているみたいだ。
「氷室、立てるか? とりあえず店の中に戻ろう」
俺はほとんど氷室を抱えるようにして運ぶ。
氷のように冷たくなっていた後輩はぴくりともしない。ほ、本当にこれはやばいんじゃないか。こいつが男に対して、こんなにされるがままを許すなんて、普段なら有り得ない。どんどん心配になってきてしまう。
すぐそこのコンビニまでの距離がやたらと遠い。空気を読まない雪の勢いは留まることを知らず、容赦なく弱った氷室に吹きつける。聖夜にこの仕打ちはちょっとないんじゃないだろうか。この世には神も仏もサンタもいないのか。
「ちっ」
舌打ちして、ドアを蹴破る勢いで店内へと雪崩れ込む。
ぼうっとするような温風。ガンガンに効いたヒーターが俺達を迎え入れる。流れているのは陽気なクリスマスソングメドレー。
「ちょっと待っていろよ氷室。今、タオルと着替えを――」
持って来る。
そう言おうとして、俺は異変に気付いた。
こんなにドタバタしているというのに、誰も何も言ってこない。いや、言ってくるような者がいない……店内には客はおろか、俺達以外人っ子一人いなくなっていた。
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