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3
「店長のやつ、またサボってパチンコにでも行ったのか?」
いや、まさかな。
コンビニ内をくまなく調べてみたが、他の従業員の姿すら見当たらない。
全ての元凶たる不良店長がちょくちょくいなくなるのはいつものことだが、さすがにこんなことは初めてだ。そもそも、外は大雪になっている。この天気で呑気に外にお出かけというのも考えにくい。
それに不思議なのはそれだけではない。
いつまで経っても誰も帰ってこないなと、時間を確認しようとして時計が止まっていることに気付いた。それも店内の時計は例外なく全てだ。加えて電話も通じなくなっていた。自分のスマホすらも反応しないのである。
偶然もここまで続くと偶然と片付けるのは無理がある。
慣れ親しんだ場所であるはずなのに、もぬけの殻となった店は妙な薄気味悪さが漂う。
メアリー・セレスト号にでも迷い込んだ気分だ。
「ハハハ……あるいは殺人鬼でも出てきそうとでも言えばいいのかね」
「その場合、外部犯と見せかけて私か先輩が犯人ですね。ミステリーとしては三流もいいところです」
「お、氷室。調子はどうだ?」
「まだ、だるいですけど。大分、マシにはなりました」
一つだけ良かった点は、暖がとれたおかげで多少なりとも氷室の体調が上向きになったことだ。従業員室のストーブをここまで偉大に思ったことはない。
「先輩にはご迷惑おかけしました……その、ありがとうございます」
俺が貸したマフラーを巻いたままの氷室が目を伏せてもじもじ。
熱でもあるのか、顔も少し赤い。
「おや、お前にしちゃ珍しく殊勝な態度だな」
「む、私だってお礼を言うときくらいあります」
「これは雪でも降るのかね」
「その冗談、面白くないです」
「さいですか」
ガラスに映る雪景色を二人で眺める。
完全なるホワイトアウト。一寸先すら見えはしない。壁一つ隔てただけの場所なのに、別世界のことのようだ。
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