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「なんつーか、閉じ込められたな」
「クローズド・ サークルの雪山山荘ってこんな感じですかね」
「コンビニじゃいまいち雰囲気不足ではあるが」
大袈裟かもしれないが、こんな状況で外に出れば本当に遭難しかねないと思えてくる。
厳しい大自然の中ならともかく、文明社会の街中で命にかかわる迷子だなんて冗談にもならない。
我知らず体験したことのない寒気がじわじわと背筋に走り始め。
小さく間抜けな、それでいてどことなく可愛らしい腹の虫が鳴く声が耳に届く。
「……氷室」
「お腹、減りましたね」
鳴ったのは氷室の小さなお腹であった。
サンタ姿の後輩は照れくさそうに頬を掻いて、ぽんぽんと自分の腹部を手でさする。何があろうと、空腹は必ず訪れる。俺は思わず吹き出した。何だか深刻になるのが、バカらしくなってくる。
「そうだな、とりあえず何か食うか」
幸い、食料はたっぷりある。
クリスマス用のチキンやらサンドイッチやらノンアルコールのシャンパンやら。適当に見繕って、代金分をレジに置く。
「こんなときに、先輩って律儀ですね」
「お前こそ、こんなときなのに落ち着いているのな」
「ここまでくると慌てても仕方ありませんから」
冷静な氷室の言葉は頼もしい。
ただ、どこか違和感を覚えもする。その違和感の正体が分からぬまま、俺達はささやかなディナーをとった。
「最近はコンビニ飯も侮れなくなってきましたね」
「同感だが……氷室って料理苦手か?」
「あ、これ美味しい。先輩もどうぞ」
あからさまに誤魔化したな。
氷室は箸でミートボールを摘まんで差し出してくる。これが意味するところは一つである。
「あーん、ですよ。先輩」
「……あーん」
大口開けてパクリ。
何から何まで甘酸っぱい味が舌を転がる――やはり、何かがおかしい。
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