シーン3:二着のドレス

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「どちらもありでいいと思います。だって、これからはどちらの家族も僕たちの家族になるんですから」 新郎の話を招待客たちは聞き入っていた。 彼らの目の前の皿には、中央のカレーが残るだけ。 「なので、この中央の味、これは僕と彼女がどちらも納得した僕たちの新しい家庭の味です。これに辿り着くまで、彼女のご家族はどれくらい試食の犠牲になったことか。本当にすみませんでした」 新郎が新婦の親族席の父親と弟に頭を下げる。 二人の顔に苦笑が浮かんでいたのは、新郎の言うことが本当だったからだろう。 中央のカレーの味は、やや甘口寄りの中辛で、聞けば市販の甘口と中辛のルーを半分ずつ入れたのだそう。 まろやかさは甘口の方から、スパイシーさは中辛の方から。 カレーは、家族全員で食べる。 子供ができたら、最初は子供専用のものを作ることになるだろう。 幼児用のカレールーが売っている時代だ。 その子が成長すれば、両親と同じものを食べる。 その時、口にするのが、この味となる。
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