シーン3:二着のドレス

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最初の通りの進行であれば、この後デザートと食後のコーヒーもしくは紅茶のあとに、両親への手紙を自分の親に読むことになっている。 しかし――。 ホール担当者たちが、新郎の両親と新婦の父をひな壇の前まで案内する。 披露宴の締めに、披露宴会場の一番後ろで行うと思っていた親たちは、両家とも困惑しながら並び立った。 通常は、花嫁が自分の親に手紙を読み上げるパターンが多いが、親への手紙がない式もある。 その後は、新郎もしくは二人で、出席した客たちに感謝の言葉を述べる流れだ。 だが今回、新郎は新婦の父親の前に立ち、新婦は新郎の両親の前に立ったのだ。 新郎は、驚く新婦の父に対して、彼女がどれほど仕事でも生活でも自分を助けてくれたか、実はドレスのことを自分はまったく気づかず、彼女だけを悩ませてしまったことを詫びる。 その上で、これからは彼女にどんなことも相談してもらえるよう頼れる夫になることを誓った。 新婦の父は、それこそ男泣きに泣きながら、娘をよろしくと新郎の肩を何度も叩いた。 その姿を見て、多くの招待客たちはハンカチを取り出し、目元に当てた。
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