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『成功してよかったわあ』
後片付けで、ケーキ入刀に使われたナイフを桐箱に入れた美姫に、香苗がこっそり囁いた。
「だよねえ。やっぱり結婚式はみんなが幸せにならないと」
『そうなのよ。その幸せに貢献できて、ナイフの精としてはこの上なく満足よ。カレーにナイフは必要じゃあないけれどね』
二人は声を潜めて、くすくすと笑った。
本当に成功してよかったと、あの覗き見た式場内の様子を何度も思い返す。
美姫には、亜希の気持ちがよくわかった。
何故なら。
美姫もまた、母親を失って久しいからだ。
しかし、病気で亡くしたのではない。
美姫の母は、彼女が幼いころに離婚し、家を出て行った。
家と父と彼女を捨てて。
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