シーン3.5:夢

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最後に覚えている母の姿は、どことなく朧気で。 本当は最後なんかじゃなく、その後も何日間か一緒に過ごしていたはずなのに。 美姫の中でその姿のまま残っているのは、あまりにも強烈な印象だったからだろうか。 自分の家の何倍も何十倍も広い部屋、煌びやかな明かり、豪華な料理、着飾った人々。 あれは、母の従姉妹の結婚式だったはず。 いや、母の一番下の妹の結婚式だっただろうか。 小学校に入学してすぐ、美姫は両親とともに生まれて初めて人の結婚式というものに参列させてもらった。 幼い弟は式の途中でぐずってしまうだろうからと祖父母宅に預けられ、自分は一緒に行くことが許された喜びに胸がはち切れそうになりながらも、美姫は両親の期待に応えようといつも以上にいい子を演じていた。 子供にとって大人の話は面白いものではなく、何度もあくびを噛み殺した。 式の時は、花嫁の綺麗な着物を眺めて、自分だったら白じゃなくて赤がいいなと、美姫はまだ白無垢も色打掛もよくわからないまま想像していた。
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