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二人と美姫の願いを聞いて、最初はシェフもなかなか首を縦に振らなかったのだと新郎は明かした。
「それに、僕は母がてっきり市販のルーだけを使って作っているんだとばかり思っていました。彼女に頼んでカレーを作ってもらったカレーは、母と味が違うのでそれでちょっと、まあ、その、喧嘩になりまして」
マザコーン! などと友人から失礼なヤジが飛び、男性客は笑い、女性客はどちらかというと苦笑いのような表情を浮かべた。
もしかすると、『これだから男って』と思ったのかもしれない。
自分の息子の話に、親族席に座っている新郎の父や兄弟たちも笑ったが、母の顔だけ笑いはなかった。
彼女と喧嘩して帰った日、母にカレーのことを聞いて、そこに母が自分なりに調合したスパイスを入れていたことを知って、急いで彼女に謝罪のメールをしたことも素直に明かした。
「そこから試行錯誤して、中央のカレーライスで二人とも納得したんです。肉は豚肉、そこは彼女が食べ慣れて来て、これからも作ってくれるだろう彼女の味を優先して。でも、ルーは市販のもので母の味に近いものを選びました。母からスパイスをもらうのは簡単です。いずれ、彼女も母からいろいろな料理を習うかもしれません。ただ、彼女が慣れ親しんできた味を我慢して封印することはない」
一度は諦めようとした実母のウエディングドレスのように。
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