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燿馬がお風呂から上がるのとパパが帰宅したのはほぼ同じタイミングだった。
炊飯器のご飯がいつもよりかなりやわらかめになっていて、
ぬか漬けのきゅうりはきちんと切れていないから繋がっていたりして、
極めつけは焼いたさんまが焦げすぎていた。
でも、誰もなにもいわずに焦げた皮を器用にはずして食べていた。
ママがおかしい。
我が家のムードメーカーが、おかしい。
東海林家始まって以来の大ピンチじゃないだろうか。
ママは半分の半分程度しか食べずに箸をおいてしまった。
パパは寂しそうな顔でママの横顔を見守っている。
食後しばらくしてから、パパはママとお風呂に入って行った。
随分前だけど、二人がお風呂でイチャイチャし過ぎている音を聞いてしまってから、私は邪魔しないように気を付けている。
だけど、今夜ばかりはどうしても心配になって燿馬を誘って様子を見に行ってみることにした。
お風呂場の灯りは、パパが前に設置したステントグラスのライトに切り替えられていて、黄色とマゼンタと水色のコントラストが綺麗だった。
時々、湯船から水が跳ねる澄んだ音が聞こえて、パパの低温ボイスがぼそぼそと聞こえた。パパが何か話しかけているんだなぁと思った。
燿馬が私の服を引っ張って合図を送ってくるから、そっとその場を離れてリビングに行く。
眉をハの字にした燿馬が私に言った。
「おふくろのことは親父に任せてさ、あんまり心配すんのもどうかと思うけど」
「うん。でも、この間まで明らかに元気なかった時は置き間違えたり、調味料とか水加減を間違うようなミスなんて一回もしたことなかったんだよ。ママ、無理してるんじゃないかなって思って…。すごく心配なんだもん」
言いながら、私も不安になってきて思わず泣きそうになる。
「はいはいはい。泣くなよ、お前まで泣いてたら俺も親父もカビ生えちまうって」
「でも、ママが不注意過ぎて怪我でもしたりしたら」
「大丈夫だよ。みすずちゃんもじいちゃんも絶対おふくろのこと守ってくれてるもん」
「………え?」
燿馬は私の頭を大きな手でぐしゃぐしゃと撫でまわしてから、作り笑いを浮かべた。
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