他愛無い日々 10

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「二人があんな風に死んだのは、偶然じゃないと思うんだ。 何かよくわからないけどさ、不自然だと思わない方が無理だろ? 早朝の畑で持病のない二人が同時に死ぬなんて…。 絶対に、二人とも無念だったと思うよ。 おふくろのことを心配して、まだそこらへんにいるんだよ、きっと。 でも、悔しいことに身内の霊は見えない。 だけどさ、なんとなく俺は感じてる。 特にみすずちゃんの意思みたいなものを感じるんだよ。 うちで唯一、血縁がないのは親父だろ? 親父の夢枕にでも立ってくれて、 何か言いたいことでも言ってくれたらいいのにな」 私は燿馬の胸に抱き着いた。 彼は時々、私よりもずっと核心に近いことを言う。 「パパは目覚めるときに夢を忘れてるって言ってなかった?」 「言ってたな…。だけど、きっとそのうち何か起こると思う」 「何かって?」 「前に親父が言ってたんだ。 お袋は東海林のじいちゃんや天才画家を憑依させて、 直接霊と話ができたんだって。 今回は反対だけど、親父にみすずちゃんは憑依しないか」 憑依という言葉に生理的な恐怖を感じるけれど。 パパに無理なら、私が依り代になっても良いのかな。 「ねぇ、燿馬。私がママのために人肌脱ぐっていうのはどうかな?」 燿馬が心配そうな顔をした。 「おふくろでも自分でコントロールできないって言ってんのに、 お前ができるわけがないだろ?」 「そんなの、わからないよ。私はママが怪我でもしないか心配なのよ。 なんとかして、ママを立ち直らせてあげなくちゃ」 「気持ちは同じだけど、でもなぁ…」 燿馬と私は途方に暮れた。 でも、突然。 パパが裸にバスタオルを腰に巻いて、裸にバスタオルを巻いたママをお姫様抱っこして脱衣所から出てきた。 「お前ら、さっさと寝ろよ!」と言い残して、あっという間に二階の寝室にそのまま入っていく勢いで階段を上った。 でも、自分の足で裾を踏ん付けたせいで、白い大判バスタオルがぱらりと落ちた。 燿馬がすかさず私の視界を遮るように身を挺してくれて。 むき出しのパパのお尻を一瞬だけ見た私は、ドキドキしながら俯いていた。 「もぉ、晴馬ったらぁ~」と、呑気なママの声がしたけど、あっという間に寝室に消えて行った。 残されたバスタオルを拾い上げた燿馬は赤い顔をして私に言った。 「とにかく、全部あいつに任せておこうぜ!」 End
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