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他愛無い日々 12
俺は夏鈴のことを8歳の頃から知っている。
出会った時に大泣きしてたってのもあって、彼女が泣き虫なことぐらいわかっていた。
美鈴さんと爺さんを同時に突然亡くした時の夏鈴は、痛々しいほどの喪失感に苦しんでいて、ずっと肩を抱いていたけどそれだけじゃ全然足りないって思った程、打ちひしがれていた。呆然としている間、何を感じて何を考えているのかさっぱりわからなかった。
こんなに近くにいても手が届かないほど遠くに感じるっていうことがあるんだと、その時初めて知った。
だから。
俺を見て、俺を感じて、頬を染めて涙目になって、身を委ねて感じて身もだえてる夏鈴を見ると安心する。
48歳にもなってまだ俺は自分勝手なままだ。
だけど、夏鈴は愛おしそうに俺の頬を撫でたり、自分からもキスを求めてきて。
「晴馬」
名前を呼ばれると、もうたまんない。
俺たちの間にある障害をすべて振り払ってひとつになりたい。
もっともっと互いの奥へと進んで、
俺が知っている夏鈴を抱きしめながら二人で弾けて。
「夏鈴……、俺のそばにいて…」
「そばにいるよ、大丈夫だよ。私はいつだって晴馬のそばにいる」
「夏鈴…でも、不安なんだよ。お前が時々、心がどこかに飛んでっちまってるみたいで」
「……ごめんなさい。不安にさせて、ごめんね。晴馬」
愛しくなるとまた彼女の奥に入って俺だけを感じさせたくなる。
それしか俺は愛し方を知らなくて。
夏鈴の体の負担もわかってるつもりなのに、止めらない。
再び始まる俺の愛撫に夏鈴は唇をきゅっと噛み締めた。
まるで痛みに耐えるように枕に顔を埋めようとするから、俺は強引に顎をつかまえてこちらに向けた。
「俺の目を見ろよ。目を反らすな……頼むから」
夏鈴は頷いた。
二度目の昇天まで夏鈴は俺から目を話さなかった。
下から見上げられて、いつもと違う興奮を感じながら夏鈴の良いところを指で押すけど、夏鈴は顔を真っ赤にしながら俺を見続けた。
嗚呼、なんだこれ。なんだ、なんだ、なんだ………。
明らかにいつもと違う感覚に包まれた。
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