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他愛無い日々 30
あれから私はどこにいても何をしていても、
燿馬がすぐそばにいるような錯覚に陥ってしまうようになった。
彼の香や気配を感じながら、絵を描き、本を読み、
勉強をして、移り行く季節を眺めた。
沈む太陽の位置が少しずつ移動して、
茜色の夕焼け雲も昨日とはわずかに色味が違う。
海と空が遠く離れながらも
向き合って互いを移す鏡になるように、
私も燿馬とはきっと
ずっとそんな関係で居続けるに違いない予感がする。
私達が求める未来は普通のカップルとは違う。
結婚とか出産や子育てというものはない。
初めから家族だから。
死ぬまで家族なんだから。
私達を引き裂くことがあるとすればそれは、
どちらかが去る時と、死ぬ時ぐらいだろう。
だから、私は今この瞬間を焼き付ける。
この心に沸き上がる思いを描き殴る。
燿馬しか愛せない自分を
私しか愛せないと信じている燿馬の瞳の中のきらめきを
私は自分を通してキャンバスに描いていく。
確かなものなどこの世にはない。
形あるものはいつか朽ちて行く。
時の流れの中において皆が同じ。
私達は変化を避けられないから。
穏やかな日が愛しいのは
にぎやかで騒がしい日があるから。
何もない日が恋しいのは
課題や創作で息つく暇もないぐらいに忙しいから。
燿馬の広い腕の中で眠る幸せが甘いのは、
それぞれの世界を精いっぱい羽ばたきながら頑張っているから。
忘れないよ、燿馬。
どこにいても何をしていても
あなたの中に私がいて
私の中にあなたがいる
ずっとそばにいて
離れていたとしてもずっとそばに感じられることを、
私からやめない限り。
確かなものなどこの世になくても
私は毎分毎秒自分の意思で決められることを知っている。
愛という一言にはそれなりの覚悟と情熱を詰め込んでいる。
私が頑張っている時はきっと燿馬もがんばっていて
だからお互いの体温を分かち合いながら
深く強く結ばれて眠りに着く夜がある。
そんな夜を何億回も味わいつくそう。
私と燿馬の重ね合わせた人生は
この身が滅ぶまで永遠に繰り返すけれど
どれひとつ同じ夜はないわ。
そのひとつひとつの輝きを
私は毎日、心のキャンバスに描いていく……
それが私。
by 恵鈴
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