635人が本棚に入れています
本棚に追加
他愛無い日々 32
晴馬が怖がりだってことはわかってた。
だから、出会って初めての夏、
二人で手持ち花火をした時に寄ってきた霊に私がうっかり話しかけた時。
晴馬はぽかんとした後で、鳥肌を立てながらしばらく無言になったのを見て。
この人には私の視える力の話はしてはいけないんだ、と感じた。
彼だけじゃない。
皆、そうだ。
波戸崎家は嫌われ者の家族。
呪われた家系と噂されれいた。
その根拠は、この視える力だった。
視えるのは幽霊だけじゃない。
オーラの色。
精神的に不安定な人の、悪夢が見える時もある。
子供だった私は自分と相手の境界線がわからなくなることがあったから、
できるだけ小さなクルミになったみたいにイメージをして
姿を表した災いが消えてしまうまで
嵐が去るのを待つように
ただ、ひたすら
時を待った。
そんな恐怖をひとりで何度も乗り越えてきた。
ずっと長く暮らして
ずっと上手く愛し合って来れて
かなり欲張りになってしまったのかな。
人はショックを受けすぎると脳が活動停止する。
急にやってくる睡魔によって、極度な負荷から解放するのだと思う。
倒れた晴馬を燿馬が背負ってベッドに運んでくれたおかげで
ほっとした。
「……ごめんね。晴馬」
寝顔にキスをしても、王子様の眠りは深いみたい。
さっき、途中で終わった体はまだ本当は……。
「バカなこと、したなぁ」と深く反省をする。
彼が風邪をひかないように布団で包み込んで寄り添っていると
健康的な鼓動が聞こえてくる。
寝顔を見ているだけで涙が出そうになるのは
離れていた10年のせい。
私が大人るまで
晴馬が過ごした10年はもっと私を駆り立てる。
どうしようもなく、独り占めしたくて。
消えない過去を気にして、泣くほど切なくなって。
時々、自分でも引くぐらい
晴馬を困らせてしまう私がいる。
「……いい子じゃなくて、ごめんね」
でも、こんな問題だらけの私のことを
ここまで長く愛してくれる人なんてきっと晴馬だけだろうな……。
もうすぐ、子供たちも巣立っていく。
そうなったら、私には。
晴馬しかいない。
ずっと離れないで。
大きな手に頬を乗せて目を閉じたらいつの間にか寝てしまった。
最初のコメントを投稿しよう!