他愛無い日々 35

4/4
前へ
/101ページ
次へ
 観念して足の力を抜こうとしたまさにその時だった。   ガチャ  玄関が開いて、おふくろが入ってきた。  そのすぐ後ろから親父も。  俺たちは四人で見つめ合ったまま、固まっていた。 「お芝居の練習でもしてたの?」  おふくろの呑気な声に張り詰めた糸が切られ、恵鈴は立ち上がった。恥ずかしそうに床に落ちていたスカートを身に着け出して、俺もおずおずと元居た場所に帰っていく。 「……ははーーーん」  親父の声。 「お前ら、そういうことは俺達が帰って来ない時にやれ」  冷やかすような声で言われ、俺も恵鈴も顔が熱くて上げられない。 「若いって、いろいろと大変よね」  おふくろが笑っていた。 「ロマンチックが止まらないものね」  いやいやいやいやいや……、何も言い返せません。 「恵鈴はようちゃんをいじめちゃダメよ? あなたの方がいろいろ強いんだから」 「いろいろ強いって?」  赤ら顔で聞き返す恵鈴が驚いている。 「ときどき、重力5倍ぐらいになるじゃない? さすがのようちゃんでも、そんな時の恵鈴を受け止めきれないんだから、手加減を覚えておいた方がいいわよ?」  買い物袋のものを冷蔵庫に入れながら、おふくろは世間話みたいに言う。  親父はそれを手伝いながら、不思議そうな顔をした。親父も気付いてないのか? 「パパに似ちゃったんだもん、しょうがないわよね。 でも、ようちゃんは私に似たんだし、長い付き合い壊れない程度に、ほどほどにね?」 「そうだぞ、恵鈴。耀馬はデリケートなんだから、あんまりいじめるなよ?」  絶対わかってないくせに、親父は恵鈴に説教した。ますます顔が赤くなる恵鈴。 「揶揄うの、やめて!」  ついにふくれっ面で怒った彼女は、カバンをひっつかんで自室に逃げて行った。 「……メスが発情するとオスは辛いな」  親父が俺の頭をくしゃくしゃと撫でまわすと、風呂掃除に向かっていった。 「ようちゃん、精神力も筋肉も鍛えておいた方がいいわよ? 恵鈴の性欲は一晩ではおさまらないぐらいなんだから」  もう、本当になんでもお見通しなおふくろに言われると、  恥ずかしい通り越して怖いっす。  END
/101ページ

最初のコメントを投稿しよう!

635人が本棚に入れています
本棚に追加