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観念して足の力を抜こうとしたまさにその時だった。
ガチャ
玄関が開いて、おふくろが入ってきた。
そのすぐ後ろから親父も。
俺たちは四人で見つめ合ったまま、固まっていた。
「お芝居の練習でもしてたの?」
おふくろの呑気な声に張り詰めた糸が切られ、恵鈴は立ち上がった。恥ずかしそうに床に落ちていたスカートを身に着け出して、俺もおずおずと元居た場所に帰っていく。
「……ははーーーん」
親父の声。
「お前ら、そういうことは俺達が帰って来ない時にやれ」
冷やかすような声で言われ、俺も恵鈴も顔が熱くて上げられない。
「若いって、いろいろと大変よね」
おふくろが笑っていた。
「ロマンチックが止まらないものね」
いやいやいやいやいや……、何も言い返せません。
「恵鈴はようちゃんをいじめちゃダメよ? あなたの方がいろいろ強いんだから」
「いろいろ強いって?」
赤ら顔で聞き返す恵鈴が驚いている。
「ときどき、重力5倍ぐらいになるじゃない? さすがのようちゃんでも、そんな時の恵鈴を受け止めきれないんだから、手加減を覚えておいた方がいいわよ?」
買い物袋のものを冷蔵庫に入れながら、おふくろは世間話みたいに言う。
親父はそれを手伝いながら、不思議そうな顔をした。親父も気付いてないのか?
「パパに似ちゃったんだもん、しょうがないわよね。
でも、ようちゃんは私に似たんだし、長い付き合い壊れない程度に、ほどほどにね?」
「そうだぞ、恵鈴。耀馬はデリケートなんだから、あんまりいじめるなよ?」
絶対わかってないくせに、親父は恵鈴に説教した。ますます顔が赤くなる恵鈴。
「揶揄うの、やめて!」
ついにふくれっ面で怒った彼女は、カバンをひっつかんで自室に逃げて行った。
「……メスが発情するとオスは辛いな」
親父が俺の頭をくしゃくしゃと撫でまわすと、風呂掃除に向かっていった。
「ようちゃん、精神力も筋肉も鍛えておいた方がいいわよ?
恵鈴の性欲は一晩ではおさまらないぐらいなんだから」
もう、本当になんでもお見通しなおふくろに言われると、
恥ずかしい通り越して怖いっす。
END
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