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大人になった今でこそ霊感を制御できているが、当時は周囲にそれらが蔓延していた。
怖いから引っ越したのだ。
なぜ、こうなったかと言えば、わたしの母親に原因がある、と周囲の大人たちが責めていた。
彼女は不幸な境遇で二歳の時に母親を目の前で亡くしている。
祖父母は瀬戸内海の島の出身で漁業を営んでいた。夏祭りのある夜、娘に花火を見せてやろうと、沖合に船を出した、
わたしの母は愚かなことに海面に映った花火を「欲しい」とゴネた。
身を乗り出して危険なので、祖母が押さえつけようとしたところ、バランスを崩して船が転覆した。
祖父はとっさに母を助けたが、祖母は溺死してしまった。
そのことが母のトラウマになっていて、自責のあまり何十年も鬱を患った。
そんな彼女が心の隙間を埋めようと古今東西あらゆる宗教にのめり込んだ。
仏教、キリスト教、天理教、エホバ、「あなたの血を浄化させてください」とかいう新興宗教。ご神体や霊感グッズが家中に溢れかえった。
精神科に任意入院を繰り返したが、おかしな言動をする以外は至って健康なので、すぐに追い出される。
「あそこに小人がいる。カエルの親子がいる」などと言い、周囲を困らせた。
その無節操な狂信ぶりに耐えかねた父親は名高い霊媒師に頼んで除霊を試みた。
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