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それでも、まるで殺気も怨念も感じられない。精霊とまではいかない。まさしく彼女は何かしらの未練や禍根を抱えて亡くなった幽霊そのものだ。
浮かない顔をしつつ、どこかしら清々しい彼女はいったい何者。
「なんだかなぁ……」
わたしは仕方なく彼女に冷蔵庫さんと名付け、共存することにした。
まもなく、母親の病状が悪化し「地震が来る」と騒ぎ始めた。
シーツを繋いでベランダから脱出用に垂らすという。しまいには業者を呼んで避難梯子を設置すると言い出した。もちろん、即入院である。
冷蔵庫さんは昼も夜もただ、そこにいるだけ。
夜になると、ぼうっと青白く光っている。もちろん、幽霊なので周囲を照らすわけではない。ただ、そこに浮遊しているのだ。
そうこうしているうちに彼女の姿を見かけなくなった。
それまでにも出たり消えたりはしていた。気まぐれであられるときもあれば、何日も姿を消している時もある。
日常に溶け込んだ彼女の存在を忘れる時もしばしばあった。
だから、正確に彼女がいつ消えたかはわからない。
年末の忙しさに追われ、一服したとき、そういえば冷蔵庫さんを見かけなくなったな、と思うぐらいだ。
そして、次の年、地震が来た。
あの台所は冷蔵庫もろとも完膚なきまで破壊された。
冷蔵庫さんは何だったのだろうか。
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