鳥はどこへいった

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鳥はどこへいった

「鳥がいる!」 母が玄関で叫んだ。 「なになになに」 面倒くさいと思いながら僕は玄関に行く。 「鳥がいるのよ」 「鳥ぐらいいるだろうよ」 「青いのよ」 「青?」 「綺麗な青なの!ちょっと来て」 僕は母と玄関を出て団地の階段を降りた。 団地内の小さな公園の木に、青い鳥が止まっている。 「飼われてたんじゃないかしら」 「セキセイインコじゃない?」 「そうなの!?」 「うん、多分。ちょっと待ってて」 僕は言い、家に戻り台所にあった食パンの袋を開けて片手を突っ込み、パンの白い部分を乱暴にもぎ取った。 母のところへ戻ると、さっきより低い位置に鳥が移動している。 「何するの?」小声で母が言う。 「呼んでみる」 「呼べるの!?」 「シィー!」 パンを握る手を開き、腕を伸ばして鳥の方に差し出す。 ピュウと口笛を吹いてみる。鳥は動かない。 チチチチと鳥のさえずりを真似してみる。来ない。 「ピーちゃん」母が呼ぶ。 青い鳥はパタパタと不安定に羽ばたいて母の肩に乗った。 わぁ!と声を出さずに母が驚き喜ぶ。 僕も目を見開き喜んだ。 どうしよう、とまた声を出さずに母が口を動かす。 「行こう、そっと」僕は言い、抜き足差し足で母の後ろについて団地の階段を登る。     
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