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「文民統制(シビリアンコントロール)なんて……馬鹿げた事がまかり通る国だからな。戦争をやりたがる馬鹿が掃いて捨てるほどいるんだよ」「軍人さんなのに、戦争が嫌いでおざんす?」
「軍人だからこそ嫌いなんだ。勝てない戦争はしない、勝っても旨味の無い戦争はしない。戦争の玄人だからこそ、戦争が始まる前にそういうのはわかる。だが……戦争のいろはも知らぬ政治家は、それもわからん愚か者なのさ」
また溜息がこぼれそうになって、明里は犬神の頭に顔を埋めた。
ーーこの男を殺せと命じるのは、その政治家の頭。なるほど、だから殺したいのか。
「あちきには難しい事はわかりゃんせ……先の戦争では旦那の活躍で大勝利、隣の小さな国くらい、恐るるにたらず……なんて新聞でも言って……」
「あの勝利がまぐれなんだよ。勝利に溺れて自軍を過大評価し、小さな国と侮って敵軍を過小評価する。その時点で勝てる見込みもないさ……」
「でも……旦那なら……」
そう……言いかけて、唇を塞がれた。深くむさぼる様な口づけと共に、胸を揉みしだかれる。
「つまらねぇ話はこれで終わりだ。現世(うつしよ)の辛気くさい話、花街(ココ)では野暮ってもんさ」
押し倒され抱きしめられると、明里は頭の芯がぼーっと痺れた。
嗚呼……いけない。今日も殺せない。この人に触れられるだけで、身体が火照って、殺せと命じられてる事さえ忘れてしまう。
この人が寝てる隙に……と思っても、犬神はあまり無防備に寝顔をさらさない。
ーー何人も人を殺してきたっていうのに……今更何を躊躇うっていうのさ。
遊郭で人が死ぬ事はそれ程珍しい事ではない。遊女から病気をもらったんだ……昇天して逝っちまったんだ……などと言われるソレが、遊女の殺しだと気づかぬ輩も多い。
ろくに眠りもせずに、日が昇りはじめたまだ薄暗い刻に、犬神は服を身につけた。
「あちきが旦那を忘れぬうちに……また来てくだんせん」
「また来るよ。明里」
気だるく倒れ臥す明里の頬に唇を落として犬神は帰った。
次こそは旦那を殺さないと。そんな事をおくびにもださず、明里は婉然と微笑む。
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