思い出のない迷子

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「ペコ、六番テーブルの“牛テール肉赤ワイン煮込みホワグラ添え”あがったよ」 「はーい」と返事をしつつペコはまじまじとその料理を見つめた。 そして、これが思い出の料理? 有閑マダムか! いったい生前はどんな食生活を送ってきたのだろう……と思った。 チリリーン。 来客を知らせるベルが鳴った。ペコの視線がドアの方を向く。一人の少年が立っていた。 「いらっしゃいませ」 ナナシに案内された少年が席に着く。それを確認してから、ナナシはいつものようにお決まりの言葉を述べた。 「三途の川前レストラン『アテンド』は、お望み通りのお食事をご用意致します。貴方に残った唯一の思い出と共にお召し上がり下さい」 言い終わると同時にナナシがメニューを手渡そうとした。だが、メニューを見ることなく少年は「カレーライスが食べたい」と言った。 迷いない言葉――ペコも同じ台詞を言われたが、空腹を覚えていたにもかかわらず、少年のように食べたい料理の名が言えなかった。 ナナシは『えっ、貴女には思い出がない?』と一瞬だけ目を見開いたが、『そうですかぁ』と何故か嬉しそうに微笑んだ。 ペコは未だにその言葉の意味や微笑みが何だったのか分からないが、その時、ナナシは『それは困りました。どうしたものやら』と全然困ったように見えない表情でこう提案した。
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