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僕は意気地なしだった。
ずっと何かを求め、何かから逃げていた。その何かが何かも分からずに……。
そんな僕を試すように、来る日も来る日も泣き声が耳に届いた。
初めは力強く聞こえていたが、次第にか細くなり……ある日ピタリと聞こえなくなった。
――僕は意気地なしだ。でも、勇気を振り絞った。
アパートのすぐ側にある派出所に飛び込んで、お巡りさんを引っ張ってきた。
泣き声の主は小さな女の子だった。
もう虫の息で、お巡りさんはすぐ救急車を呼んだ。
――もっと早く勇気を出していたら……。
ガリガリに痩せた小さな手をソッと握ると、女の子の長い睫毛がゆっくりと持ち上がった。
生気のない虚ろな目を覗き込みながら「大丈夫だよ」と呼び掛けると、一瞬だけ彼女の瞳に光が戻り、彼女が微笑みが浮かべた。
僕はその微笑みに息を飲んだ。それほど可愛い笑顔だったからだ。
誰に祈ればいいのだろう? 僕は分からないまま祈った。
どうか彼女を助けて下さいと……。
『アテンド』の一節より
The End
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