プロローグ

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ここはどこだろう? 雪が視界を奪うホワイトアウト現象のように、乳白色の濃い霧に包まれた空間もまさに『白い闇』だった。 方向も高度も地形の起伏さえも識別不能。そこがどこなのか、どこに向かっているのかさえ分からなかった。 視覚だけではない。匂いも音もない。臭覚も聴覚も全く役に立たないということだ。五感をフルに使えない人間とは、何と心許ない存在なのだろう。 そんな状態なのに、それでも誰かに背中を押されるように、前へ前へと足を進める。 どれぐらい歩いたのだろう? 突然何の前触れもなく霧が晴れ、眩しい光と共に目の前に川が現れた。向こう岸が見えないほど広い川だ。 川岸に小舟が一艘(いっそう)浮かんでいる。だが、誰も乗っていない。 それをボンヤリ眺めていると、「おや、おや」と背中の方から声が聞こえた。 驚き振り向くと、どこから現れたのか一人の男が立っていた。 真っ白いコック姿に身を包み、山高のコック帽をかぶった……この世の者とは思えない、それは美しい男だった。
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