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児童書コーナーの一番端にある一冊の本に目が止まった。
昔から私は思っていた。本との出会いは人間の縁と似ていると。一期一会……まさにそれだ。
光に包まれたように見えたその本に、思わず手を伸ばし届いたと思ったら、「えっ?」誰かの手が重なった。
「あっ!」
その誰かも驚いたようだ。小さな声を上げた。
そして、「ごめん」と謝った。
本から視線を声の主に向けると、その人は見上げるほど背の高い青年だった。
彼の顔を見た途端、ドキンと心臓が大きな音を立てた。
青年も驚いたように大きく瞳を見開いた。そして、一言言った。
「どこかで会ったことあるよね?」
昔から使われているナンパの常套句だ。
いつもならフンと無視して立ち去るのだが、なぜかこの時は「私もそう思った」と返していた。
その時、二人の重なった手が求めようとした本は、十数年前に亡くなった童話作家のものだった。
タイトルは――アテンド。著者の名はナナシ。
“僕は意気地なしだった”から始まる内容は、児童書としては若干暗いが、年月を経ても今尚人々に受け入れられ読まれている一冊だった。
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