143人が本棚に入れています
本棚に追加
/236ページ
『仕方ありません。思い出の料理を思い出すまで住み込みで働いて頂きます』
それ以来ペコは洋館の二階に身を寄せ、アテンドのホール係として働いているが……今以て何が食べたいのか言えないでいる。
思い出の料理がなぜ大切なのだろう? もう何でもいいじゃないか!
自分より後に来た人たちの食事シーンを見るにつけ、ペコはどうしてそれが大切なのだろうと疑問を持つようになった。
だからある日、『食事をする意味は?』とナナシに訊ねた。すると彼は『それを人は“最後の晩餐”と呼びます』と答えてくれた。
ペコを納得させるのに十分な答えだった。ペコはその一言で理解した。思い出と共に“最後の晩餐”を済まさなければ、あの小舟であの世とやらに行けないのだ……と。
だったら、この人たちも?
アテンドにはペコとナナシの他にも厨房に二名、ホールに二名、計四名の人が働いている。この四人も“最後の晩餐”を済ましていないようだった。
だが、四人とペコでは理由が違うみたいだ。
ナナシ曰く、『死の直前に脳裏を駆け巡る走馬灯は、自らの人生を映すと言います。それは、すべての思い出を昇華して真っさらの状態で旅立つ儀式なのです』らしい。
それによると、四人は昇華し切れていないから旅立てないということだ。
『貴女もきっと走馬灯を見たと思います。でも、貴女の場合、唯一残さなければいけなかった思い出の料理まで何かの拍子で忘れてしまったのでしょう』
これはとても特異なことだとナナシは言った。
最初のコメントを投稿しよう!