嫌いなままでいい

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「ゆーきーがーふってますよーん!」  同居人が窓の外を見て大声をだした。  うるさいな。  窓の方を見ると、確かに暗闇の中、白いものがひらひらと舞い落ちていた。 「わーい!」  犬か、お前は。ええい、窓を開けるな。  うっとりと外を見ていた同居人は、振り返って蕩けるような笑顔を浮かべて、 「嬉しいね!」  心底嬉しそうに言った。  何がそんなに楽しいのか。 「雪は街の様子を一変させて、子ども達がはしゃいで」 「お前もな」 「とってもハッピー!」  全然ハッピーじゃねーよ。  一般的には、雪は公共交通機関の遅れを出すし、それなりに嫌がられてるよ。お前と子どもぐらいだよ、喜ぶの。  自作の雪が降る歌を歌いながら、同居人はまだ窓の外を眺めている。  彼女と別れて、一人で長いことを生活して、そこに転がりこんだこの同居人。  底抜けに明るくて、結構馬鹿で苛々させられることもあるけれども、でも一緒に暮らしていて楽しいと思っている。  この無駄な明るさに救われている。  そう、例えば。 「……まあ、朝になったら散歩にでも行くか」 「いいね!」  雪の中わざわざ外に出てもいいかな、って思う程度には。 「だから、もう寝ろ」 「えー」 「えーじゃない。何時だと思ってるんだ」 「雪見てるの、楽しいのになぁー」  不満そうな顔をしていた同居人だが、黙って睨んでいたらしぶしぶ窓から離れた。  代わりに窓に近づいて外を見る。  雪は、うっすらと積もりはじめていた。
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