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24時間、戦っていたんです
段ボールがずっしりと重い。おまけに埃だらけで型番が色あせている。これを開封しなきゃいけないと思うと意識がかすむ。
その前に、摩擦係数に勝たねばならぬ。腰を屈めて戦闘態勢に入る。
何が悲しゅうて女ざかりのわたしが昭和の遺物と相撲を取っているのかといえば、親族から依頼を請けたのだ。
「ハードディスクレコーダーに可能な限りダビングせよ」
その言葉じたいが死語になっている。
平成風に言い直せば、動画データのサルベージ、だ。だいいち、ダビングとメディアの変換は天と地ほども違うのだが。
とにかく段ボール箱一杯分の録画テープが「腐る前に」どうにかせよ。
それが今回のミッションだ。
報酬は諸経費手数料込みで1万円。HDDドライブの値段も含まれている。
とっくに滅びた白物家電メーカーの空き箱??いや、前世紀の遺物を孕んだ文化の屍を苦心さんたんして引っ張り出した。
開封すると黒い直方体がぎっしりと詰まっている。
そして、すき間から小さな巨悪がもぞもぞと這い出てきた。
きゃ~などと悲鳴をあげている場合ではない。
まだオリーブ色の幼体であるが、汚物は消毒せねばならぬ。いや、洗浄だ。
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