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シュッとひと噴き。そいつは泡にまみれて窒息死した。亡骸を大量のティッシュで埋葬し、そのままポリ袋へ。
ようやく前哨戦が終わった。これからが本番だ。その膨大な作業量に費やす時間を計算するだけで気が遠くなる。
考えていても日が暮れるだけなので、手を動かすことにした。
箱から一本目を取り出す。
黒いケースの背に何やらマジックで手書きしてある。
「バルセロナオリンピック開会式①?」
いったい、そんなものを撮りためてどうするつもりだったのだろう。
今となっては知る由もない。持ち主は鬼籍に入っている。
テープの整理を依頼してきたのは彼の奥さんだ。普通ならとっくに処分されている筈のビデオテープをどうして遺すのだろう。
理由を尋ねてみると、二人の思い出がどこかに紛れているからだという。
振り返ってみると叔父はずいぶんとアバウトだった。家族の記録と留守録を混在させて平然としておれるのは昭和世代特有のおおらかさか。
「とにかく、一切合切移してほしいの。あとは私が何とかするから。今はパソコンで検索とか簡単にできちゃうでしょ?」
未亡人が言うには、録画番組などはどうでもよくて、故人の動画だけを抽出できればいい。それがどこに埋もれているか問題だ。
「え~。早送り再生するにせよ、結局のところ全部見なくちゃいけないんですが」
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