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雷亜の住んでいた街には魔物はいないと聞き、苅与は反対の方角に向かった。雷亜は『狼波などと組んでいたらいつかひどい目に合う』と、苅与を狼波から守ると称して同行してきた。苅与は自分は旅に手を貸さないという条件で同行を許した。意外にも狼波もあっさりと賛同した。足の怪我を理由に小間使いにしようと考えたからだ。雷亜は下らない用件は怒って取り合わなかったが、怪我人を放っておけずに何度も狼波の面倒を看た。
次の街に着き、苅与は街の東の山に住む魔物を狩る依頼を受けた。単体だが広い山のどこで遭遇するかわからず、三日ほど雷亜と共に魔物が目撃された地点に通った。
その間、常に狼波は帰り道では寄生を解除していた。苅与が宿に戻り明日の予定を告げに行くと、酒に酔っていて話を聞いているのかわからない状態だった。
雷亜は見兼ねて、苅与が去ってから狼波の部屋に残り、飲みかけの酒を奪い取った。
「あんたどれだけ最低なの? 自分だけ安全な場所にいて、よくそんなことができるわね」
狼波は頭の後ろに手を組んで寝台に転がった。
「苅与は別に何も気にしちゃいないだろ」
「あんたが人として最低だって言ってるのよ! 帰り道も苦楽を共にしようとか思えないワケ?」
雷亜は声を張り上げたが、狼波は全く動じなかった。
「帰り道なんて、別にすることもないし」
「そんなこと言ってるんじゃないわよ! せめて帰ってきた苅与さんをねぎらう気持ちくらい、持って当然でしょ?」
狼波は、半眼で雷亜を睨んだ。
「てめぇ、人がみんな同じ思考回路持ってると思うなよ」
起き上がり、狼波は雷亜に見下したような笑みを向けた。
「おれはそんなことする気も起きねーし、しないで気まずくも思わねーんだよ! 難しいコト教えてやろうか? 生き物の考え方は皆、生まれる前から頭に刻まれてる『種の存続』に基づいているんだ。お前がおれに難癖付けるのは、おれが種の存続を脅かす存在だからだ。おれが苅与を殺すと思っているから、そんなにムキになってるんだよなぁ?」
「殺すなんて、そこまでは……」
雷亜は突然物騒な話になって戸惑った。狼波は笑みを消すと、真紅の瞳で雷亜を見据えた。
「殺せるよ、おれは。おれの深層心理には、種の存続なんて刻まれてないんでね。直接手を下しはしねーよ。苅与が救いを求めても、おれの心は動かないってだけだ」
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