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ツンと鼻腔を突く独特の硫黄臭と甘ったるい腐敗臭が混じった口臭にエラッタはむせ返りました。
「ああ、この魔王がもっと若くてハンサムで背が高くて筋肉質で高学歴で優しくて家事とか厄介ごとは率先してやってくれる人だったらなぁ」
エラッタはハッとして心臓が凍り付きそうになりました。あまりに疲れて頭が朦朧としていたので、日ごろの不満がつい口に出ました。
夫の表情がみるみる崩れ落ちていきます。
「ひぁ」
彼女は両腕で顔をブロックし来るべき殴打に身構えました。
「ごごご、ごめんなさい。ごめんなさい」
蚊の鳴くような声で謝罪を繰り返しますが反応は在りません。
それどころか、涼しい声が返ってきました。
「やぁ、君。何を怖がっているんだい?」
彼女が恐る恐る目を開けると、なんということでしょう!
そこには魔界紳士録の表紙に載っているような切れ長の優男が微笑んでいました。
「あ、あなたなの?」
「そうだよ。ハニー。僕の顔に何か付いているかい?」
「え、う、うそ、何かの冗談でしょ?」
「ジョーク? ああ、退屈させてごめんよ。フランケンシュタインと狼男のブラック漫才コンビでも召喚しようか?」
「いいのよ。あなた」
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