エラッタと三つのねがい

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 夢のような気分です。新婚当時の優しくて気配り上手な魔王が復活したのですから。 「喜んでいただけましたでしょうか?」  いつの間にか、あの紳士がエラッタの隣で微笑んでいます。 「ちょ、あなた、どうやって地獄へ?」  目を丸くするエラッタの疑問によどみなく彼は答えました。 「地獄というのは量子力学の多世界解釈に基づく実現可能性の一つです。エラッタ様がわたくしどもの世界線に干渉した際の波動関数を逆算して量子状態を再収縮させることであなた様の存在確率を近似できます」 「??? よくわからない呪文ね。じゃあ、あいつは? わたしの夫はどこへやったの?」 「旦那様が今朝お使いになられた櫛を洗面所から拝借いたしまして、そこに絡みついたる抜け毛の毛根細胞からクローンを培養しました。ご存知のようにクローンは受精卵から育成するので長い年月がかかります。そこであなた様を一時的にエキゾチック物質で覆い、ワームホールを通過させることで旦那様との相対論的時間差を解消したのです。ええと、双子のパラドックスですな」 「さっぱりわからないけど、すごーい」  エラッタは新しい玩具を買って貰った少女のようにときめきました。
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