復讐開始

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 お皿選びもポイント。  ターコイズブルーのオーバル型の皿に赤いパスタを乗せた。少し高さを出して盛りつけて、海老の殻も頭の見栄えの良い所がよく見えるよう配置すると綺麗だ。  金の縁取りのついた白い皿なら、色鮮やかなサラダが映える。  ピンク色の切り子ガラスの器に、冷製スープを入れましょう。ピンクに淡い緑がまるで春の桜みたいね。  食器を取り出す時、ちらりと見えた青いグラス。悩んだ時にグラスの縁をなぞる貴方の癖。  私知ってるわ。彼女と私。どっちにするか悩んで、家を出て行った貴方。  悔しいでしょう。私の料理が食べられないなんて。 「お気の毒様」  思ってもない事を口にする。  どうせ誰も聞いてないのだから、想いっきり貴方をなじる言葉を吐けばいいのに。人の悪口を口にするのも、怒りを言葉にする事も苦手で。  浮気されて、捨てられた。  あの時、怒って、泣いて、想いっきりひっぱたいておけば、楽になれたのに。  それができず、もやもや溜め込んだストレスの全てを調理にぶつけた。  一人で作って、一人で食べて、初めは涙の味がしたけれど。  今は涙もでてこないし、純粋に美味しい料理を楽しめるようになった。 「完成!」  今日の料理はオマール海老のパスタ。色とりどりのサラダと。アスパラガスのスープ。どれも見た目が美しい。ブラウンの上品なテーブルクロスの上に、シルバーと一緒に並べた。  ーー見栄えが命だから。  ぱしゃり、ぱしゃり、写真を撮る。この為に一眼レフのカメラを買って練習した。高い買い物だったけど、やっぱりただのデジカメより、ずっと美味しそうにとれる。  写真の出来に満足して席につく。  並んだ料理、部屋に一人きり。時計をちらり。午前0時。よし! 「いただきます」  最初にスープをスプーンで掬って口に運ぶ。口の中でほどけるなめらかなくちどけ。  アスパラガスの青さと、玉ねぎの甘みがクリームに溶け、口の中にひんやりとしたうま味の余韻が残る。  アイスプラントにかじりつくと、ぷちぷちとした食感とほのかな塩気に驚いた。このぷちぷち感、癖になるわね。気に入ったわ。  パクチーの爽やかな香りに包まれた、ズッキーニにかぶりつく。しゃくりと小気味良い歯触り。  フレッシュなトマトの酸味と、オニオンスライスの辛さ、パプリカの甘みを順番に味わうと飽きが来ない。
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