6.GLORY DAYS

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言った後でハッとする。 違う、そうじゃない。 真っ先に伝えたかったのは、 私を心配してわざわざ来てくれた 優しさに対する感謝の気持ちだったのに。 どうして私はいつもこうなのだろうか。 なんだか自分が情けなくなって、 哀しい気持ちで光正を見つめると、 その肩は雨で濡れている。 「傘、持って来なかったの?」 「家を出るときは降って無かったから」 「…ごめん」 「うん、いいよ、分かってる」 謝っている本人ですら、 何に対する謝罪か分かっていないのに。 なぜか目の前の人は、 それを把握しているようだ。 「何に対する『ごめん』なのか、 ちゃんと理解してるの?」 またキツイ口調でそう言うと、 光正は穏やかに微笑みながら答える。 「最近、俺には冷たく接していたのに、 困った時だけ俺に頼ってると思ってて。 しかもこんな遅い時間に呼び出したこと、 急に雨が降って濡れさせてしまったこと、 きちんと御礼を言おうと思ったのに、 ちょっと感じ悪い言い方になったこと。 そんなことを全部ひっくるめて、 『ごめん』と言ったんだろ?」 その表情があまりにも優しくて、 思わず泣きそうになるのを必死で堪えた。 「…雅、とにかくどこか店に入って、 じっくり話をしよう」 そっと肩に置かれたその手の温もりが、 ジワジワ全身に広がるような錯覚を感じ。 私はようやく素直に頷いた。
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